毎日句会の週間秀句と選評

2023年3月13日

五百齢触れてあたたか椋大樹

はく子

やまだみのる選

大阪府の天然記念物として枚方市の丘の上にあり鋳物師が椋の葉で鋳物を磨くために植えられていたものだと作者から教えてもらった。ケヤキ、エノキ、ムクノキはよく似ていますが葉の表面がざらざらしているのが椋の特徴で漆器を磨くのにも使われたという。

高樹齢の大樹の幹を撫ぜていると様々な試練に耐えてきたであろう古木の暦年と自分自身の人生の来し方とが重なる。老いを受け入れてなお頑張れ…という大樹からのメッセージが伝わってくるのである。

空を蹴り山を蹴り上げ半仙戯

よし子

やまだみのる選

半仙戯(なかば仙人になるような気分がすることからいう)は「ぶらんこ」の異名。主人公は高齢の作者自身ではないことは明らかであるが、基本通りに一人称で詠まれてあることを学びたい。

小学校高学年になると乗り方もいよいよ大胆になり、勇敢さを競うかのように「立ちこぎ」を始める。まさに揚句のような「空を蹴り山を蹴り上げ」状態になる。元気なのはいいことだけれど無茶して怪我しないでね…と祈り心で眺めている作者も見えてくる。

遺さるる身の哀しさよ鳥帰る

たか子

やまだみのる選

とつぜん医師から愛する家族の余命宣告を受けた深い哀しみと断腸の思いとを十七文字に託した作品。選評に取りあげるか否かについて随分悩んだけれど作者の了解が得られたので鑑賞してみたい。

溢れる涙を見せまいと仰いだ御空遥かに新天地へと渡っていく鳥たちを認めた。その姿は「永遠の命に生きるために先に天国へ旅立つだけ、必ずまた再会できる」のだと教えている。揚句には、哀しみを希望に変えて頑張ろうという作者の覚悟が隠されていると信じたい。

2023年3月6日

大いなる鳶の輪の中春耕す

やよい

やまだみのる選

鳶が輪を描くように飛ぶのは上昇気流のふちを飛ぶと羽ばたかずに済むからで、楽に飛びながら上空から餌を探している。獲物が動き出す啓蟄の時候によく見かけるのには理由があるのです。

雪が解け里山に辛夷の花が咲き始めると春田打ちが始まる。冬の凍てで固くなった土を鍬で天地返ししてほぐすのだ。春空高く舞う鳶は、「よし、ことしもまた頑張ろう!」と士気を高揚させてくれる。大いなる…の措辞は、新たなる希望の大きさでもあるのだ。

啓蟄や野良着の破れ繕はむ

みきお

やまだみのる選

寒かった冬も終わり啓蟄の暖かい日差しが戻ってきた。そろそろ畑仕事の準備をはじめねばなと野良着のチェックをしているのである。

土や泥で汚れたり何かに引っ掛けて破れたりということを気にしなくてもよいので野良着には普段着のお古などが好んで使われる。汚れが染み付いたものは新しくすればいいと思うのだが、サイズ感とか着心地などがぴったりフィットするものは捨てがたく愛着があるので、汚れては洗い、破れては繕っていつまでも使うのである。

書き置きの端おさへたる蓬餅

ひのと

やまだみのる選

「ただいま!」と元気よく学校から帰ってきた子供達の第一声は「お母さん!今日のおやつはなに?」となるのだが、今日は所要で出かけるので子供達への書き置きのメモを机の上に置いたのである。

「草餅をつくっておいたから手を洗ってから食べてね。食べ終わった宿題を忘れないでね。それから、それから…」と続いているのかも知れない。市販のお菓子ではなく手作りであるところに母としての愛があり、子供達もまたその優しさを実感しながら頂くのである。

過去一覧

2023 [ 01 | 02 | 03 | 04 | 05 | 06 | 07 | 08 | 09 | 10 | 11 | 12 ]
2022 [ 12 ]

感想はお気軽に

感想やお問合せはお気軽にどうぞ。

Feedback Twitter