月間秀句/202504

2025年4月1日

木の芽時なれば昼餉は庭椅子で

よし女

やまだみのる選

立春から春分の日頃までの時期は、気候も暖かくなり草木が芽吹き始めることから「木の芽どき」と呼ばれるが、温暖化による異常気象がつづく昨今24節季の微妙な感覚を捉えづらくなっている。

ようやく冬ごもりから開放された喜びが伝わってくる作品である。お庭の芽吹きを愛でるだけではない。この庭からは笑い始めた借景の山並みも見えていそうだし、春風に乗って磯の香りも通ってくるのではないかと思う。そういう気分の木の芽どきなのである。

白魚の跳ねて綺羅散る四つ手網

たか子

やまだみのる選

2月下旬から4月上旬にかけて行われる白魚漁。四ツ手網を広げて行う漁の姿は、萩の春の風物詩となっている。潮の流れにのって白魚が川を遡ってくるのを待ち、群れが網の上を通過する頃合いを見計らって一気に網を引き上げるというもの。

引き上げられた網の上で水しぶきを飛ばしながら躍り跳ねている。シロウオと言われるけれども実際は透明で折からの明るい春の日差しを反射して雲母を撒いているように眩しく見えているのである。

青空をしとね水面の落椿

あひる

やまだみのる選

椿は春を代表する花で万葉集にも詠まれてきました。花びらが散るのではなくて花ひとつが丸ごと落ちるため落椿という季語が生まれた。正確には独立した季語ではなくて「椿」の子季語である。

水面や苔庭、なごり雪の上などに落ちているのはとても風情がある。揚句のそれは蹲か池に落ちて上向きに浮かんでいるのであるが、あたかも水面に写った青空をおふとん代わりにして極楽往生しているようだ…と詠んだのである。椿の赤と空の青との対比も美しい。