月間秀句/202407

2024年7月3日

無人店野菜並べる日焼けの手

康子

やまだみのる選

昨今は事業形態のひとつとしてさまざまな商品の無人販売所が増えているが、揚句の場合は、畑に隣接したような農道沿いに設置された掘っ建て小屋のような簡易な野菜販売所だと思う。

専業農家ではなくて自給を満たしてなお余る収穫を道行きの人に安く提供しているのである。畑仕事姿のまま日焼の手を伸べて野菜を並べている農夫に声をかける。揚句では手に焦点が絞られているが朴訥で親しみやすそうな笑顔の日焼顔もまた目に浮かぶのである。

尖塔の町を自在につばくらめ

風民

やまだみのる選

一読世界遺産チェコのプラハの街を連想した。北欧の国々には街のあちこちに美しい尖塔が抜きん出ている。それは古城であったり大聖堂であったり街のシンボルとして親しまれているのである。

それらはみな古く長い街の歴史とともにそこに住む人々の誇りであり旅人たちには得も知れぬ旅情を与える。作者の位置はその街を見下ろせるような高台にあるのではと感じさせる。尖塔を掠めるように自在に飛びまわる燕たちの姿も又平和の象徴だと思う。

柱廊のごと喬木や夏木立

山椒

やまだみのる選

「柱廊の如し青葉の杉並木」が原句。太い街路樹並木を柱廊と捉えたところが手柄だが、杉は基本的に常緑であり葉代りはするものの青葉の季語に無理がある気がしたので直して採らせていただいた。

手入れの行き届いた杉美林はきちんと間伐され下枝も払われて樹齢百年級の大樹が競うように垂直に伸びている。秀枝を洩れて指し届く夏日に濃い影を落としているその奈落道をゆくと、美しい柱廊の影を縫いながら歩いているかのような清涼感を感じたのである。