鈴虫の輪唱にペン休めけり
温泉を引けるパイプなるべし草紅葉
杣人に夕かなかなのしぐれ急
エレベーター釣瓶落としの日にのぼる
秋晴の航跡内海二タ分けす
雑魚寝なる二等船室秋の蝿
一刷の風いなしたる大芭蕉
秋思あり汝が洩らしたる一と言に
栗を焼くおばさんに聞く寺縁起
右手の嶮左手の嶮や紅葉狩
醜草も名のある草も露しとど
自づからシテとワキあり法師蝉
窓閉めてノアも斯くやと台風裡
神慮いま斯く装ひし花野かな
しまひ湯に肩の沈めば虫浄土
碧落に雲のあそべる花野かな
神杉の全長仰ぐ天高し
妻と吾の灯下親しむ趣味は別
補聴器の人と佇む秋思かな
大玻璃を泪走りす秋の雨
白露のごとく灯ともる過疎の村
山頂の一本杉に霧迅し
羅漢みな誰彼に似て秋を聞く
流木をベンチとしたる秋思かな
長嘆す沖の汽笛の露けしや
軋み会ふ木場の筏や初嵐
寝ころべば地球が回る鰯雲
大秋晴水平線の撓みけり
杣帰る夕かなかなの輪唱裡
鉾杉の鎬を削る天高し
磐石の下より縷々と残る虫
湖昏るる遠かなかなの輪唱裡
老骨といはるる馬の肥えにけり
海の日の落つるに愁思うべなひぬ
雨霧に露草の瑠璃にじみけり
岩頭へ攀じる一縷の蔦紅葉
絵図になき園の脇道吾亦紅
シスターのベールに触れて銀杏散る
釘打たれたる檄文や木の実降る
秋深し持病可もなく不可もなく
稲架昏れて山の端出づる一つ星
空谷の奈落に秋を聞きにけり
パラボラを過ぎゆく秋の雲迅し
廃屋の屋根と見らるる葛かずら
虫の秋余震の夜々を語り草
夜行バス窓に星飛びはじめけり
蒼天へ尖る山容杉の秋
霧閉ざす山のホテルのロビー混む
賞の札見よやと菊の直立す
山頂へ近づくほどに天高し
葛の蔓落石防止網攀ぢる
間遠なる奈落の瀬音夕紅葉
背高のコスモス馬柵に凭れけり
橋半ば運河の秋を聞きにけり
吊橋の足下の谷は葛畳
かなかなの四方に谺すバーベキュー
広前に土俵づくりや村の秋
羅漢みな誰彼に似て秋を聞く
紺碧の海展けたる野菊かな
小田の藁塚しよぼしよぼ雨に傾ぎけり
このあたり古墳銀座や穂絮とぶ
秋燕サイロの空に群れにけり
高きより簷牙に撥ねる木の実かな
末枯の野良猫われに媚びにけり
月の友一期一会を語り草
売地札傾ぎしままや露葎
古城址の秋を聞けとぞ鳶の笛
堵列せる羅漢につるべ落しの日
序破急の風に黄落くりかへし
出港の汽笛一声天高し
吊橋の一投足に秋の声
翼折る芭蕉は風にはばたかず
人生はこれより佳境菊に立つ
菊の虻懸崖のぼりつめんとす
ななかまどバスに触れもす信濃かな
野生馬の肥えて噴煙高きかな
八つ裂きの芭蕉になほも雨の鞭
萩の屑流す山雨となりにけり
馬柵つづくかぎり歩みて秋思かな
俳風を異にして佇つ秋風裡
書淫の眼閉づ鈴虫の輪唱裡
露万朶朝日の躍り出たりけり
歌膝となりて木の実を拾ひけり
雲の翳とどまり難し秋の峰
すて猫の声のか細く秋風裡
ジョギングの土堤何処までも鰯雲
脱稿の深き疲れや虫すだく
秋日落つ議事遅々としてはかどらず
暮れなづむ野に湧くごとく赤とんぼ
法の山大合唱の法師蝉
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