吟行が苦手だというあなたのために秘訣を教えます。
筆記用具は予備のために複数持っていく方がいいです。 私は首紐のついた赤黒二色ボールペン(メモは黒、推敲は赤)を愛用しています。句会で短冊や清記用紙に書くときは、弱視の方のために太い字ではっきり書くのがマナーなのでサインペンか筆ペンがいいです。鉛筆書きは避けたいです。書き損じたときのために修正ペン、紙を切るため小型のナイフ、ハサミなどもあれば重宝です。
書店で探せば、付録に季語が載っている専用の句帳が売っています。でも、使い古しの手帳とかメモ用紙を小さく切ってホッチキス止めしたような自作の句帳とかでも構いません。 句帳に文字を書くときの注意は、ぎっしり詰めて書くのではなく、あとで推敲するときのために句と句の行間スペースをたっぷり取っておくと便利です。
ポケットサイズの季寄せを一冊持っていると便利です。歳時記はかさばるので吟行時に携帯するのはお奨めしませんが句会の時にはあった方が便利です。ほかに50,000語くらいの小型の国語辞典とか、漢和辞典、用字辞典など好みによって一冊持っている方が良いでしょう。最近は電子辞書を使う人が多いです。
不案内な吟行地の場合は簡単なガイドブックや案内図などもあったほうがいいです。その他大きめのビニール袋(汚れたところに腰掛ける時や臨時の雨合羽にもなる)、大きい目のハンカチ・・等々
荷物は最小限に、またできるだけコンパクトにして体に負担のかからないようにします。
句会に必要な文房具、辞書その他重いものは別にまとめて、コインロッカーなどへ預けておくのが賢明です。吟行地と句会場が近いときは先に句会場に立ち寄って荷物が預けられると助かります。
動きやすくて疲れない服装が一番です。
一張羅を着て汚れるのを気にしながら吟行している人がありますが集中できないので良くないです。天候や気温が急変したりするので、季節に応じたカーデガンを一枚持っていると調整がききます。大きめのハンカチ、スカーフなども応用がきくので持っておくと便利です。
一番のお奨めは運動靴、ジョギング用のスニーカーです。
最近は晴雨兼用の軽いトレッキングシューズを愛用する人も増えています。当然ながら堅い革靴とかハイヒールなどは避けた方がいいです。
片襷に掛けられるショルダーバックが一番お奨めです。
どうしても荷物が多くなる場合は小型のリュックとウエストポーチの組み合わせが便利です。
とにかくいつも両手が空になるようにするのが秘訣です。ハンドバッグ、手持ちカバン等は吟行向きではありません。
気心の知れた仲間と数人で吟行するのは良いと思います。但しおしゃべりがすぎないように注意します。マイペースを守りたい人は1人で吟行する方がいいでしょう。気遣いのいる人と一緒に吟行しても句はできません。吟行途中で仲間に出会っても軽く会釈をする程度で相手の作句の邪魔をしないように配慮するのがマナーです。相手が気づいていないときは無理に声を掛ける必要はありません。
あちこち欲張ると集中する時間が少なくなるので、ここだと言う感じを得たらその場所を動かないで頑張るのが一番良い結果が得られます。人通りの多いメイン順路よりも裏ルートに案外よい句材が落ちていますから見逃さないように探しましょう。吟行経験を積むと句の拾えそうな場所を嗅ぎわける感も養われます。ベテランの人がどんな場所で句を作っているかをこっそり後を付けて勉強するのも一策です。
漫然と歩き回っても句は拾えません。まず季語を見つけましょう。そしてその季語で作るようにします。同じ季題でもいろんなバリエーションがありますから季寄せなどでチェックしながら作句します。花とか小動物とかだけが季語ではありません。生活一般にまで視野を広げて季語を探します。動物園だから動物、植物園だから植物、墓地だから墓碑・・・というように場所との関連にこだわって季語や句材を限定すると失敗します。
未完成の句でも必ずメモしておきましょう。感動したけれど17文字にまとまらないということは多いです。そんなときはできるだけ具体的に情景をメモしておきましょう。後で推敲しているときに突然ひらめくと言うこともあるからです。
GHの一泊鍛錬会では、10句出句の句会を4回、合計40句を吟行で詠みます。 でもこの程度で驚いてはいけません。昔の鍛錬会というのは1時間ごとに10句の句会をし、一晩で200句くらい詠むという話を聞きました。なぜ、こんなことをするのでしょうか。
1時間に10句ですから、辞書を引いたり季寄せを見たりしてあれこれ思考している時間はありません。とにかく直感でパッと詠むという訓練なのです。あちこち移動すると時間のロスなので、とにかくここと決めた一カ所で10句、20句と詠むのです。 こうした訓練によって、直感力や集中力、根気というものが養われるのだとぼくは思います。
佳い句を詠むとか内容とかは二の次でいいのです。厳守しなければならない次の二つだけです。
吟行の苦手意識を払拭するにはこの多作訓練法が最も効果的です。
吟行初心者は、出句が五句と決められたら必死に五句を詠むことに全精力を傾けます。で、なんとか五句詠み終えると、やれやれとひと安心してもうあとが続かない。これでは吟行を愉しむというより苦行になってしまいます。
ではどうするか、実際にぼくが取り入れている方法を公開しましょう。
吟行後の句会で出句が5句であれば、最低でもその2倍、出来るだけ3倍の15句は詠むということを目標にします。とにかく多作を心がけて最終的に15句の中からベスト5を選ぶのです。この方が遙かに楽です。
独りで吟行に行くときも "今日は30句詠むまでは帰らない" という目標を自分自身に課してできるだけ目標に近づくように頑張ります。佳句を詠もうという意識は捨てて一心不乱に多作をめざすのです。
『玉石混淆』家に帰ってから多作の句帳を眺めると雑の句に混じって必ずいくつかは光る作品があるはずです。
まずこの方法を半年続けてみて下さい。成績に執着しない限り、7句出句であろうが10句出句であろうが句数を揃える事への恐れはなくなります。
この心がけを励行しないといくら経験を重ねても吟行が楽しいという実感は体験できません。勇気を出して挑戦しましょう。
"吟行で一句も詠めなかったらどうしよう・・・"
と心配して、あらかじめ用意した句を安全パイとして句帳に書いてこられる方があります。じつはこれが一番の弊害なのです。
手持ちの句を持っているという油断があるので、集中して句を詠もうという緊張感が湧きません。 うろうろ移動するばかりで、最終的には何とか詠めた1~2句と手持ちの句を足して出句することになります。
メンバーの個性を熟知している選者であれば、吟行で詠まれた作品か否かは直ぐに見分けられます。 この習慣から抜け出さない限り、吟行の楽しさや、ほんものの俳句ライフの喜びは見いだせないと思います。
吟行地が決まると情報を集めたり資料を読んで予備知識を備えます。
その土地の風土や歴史を予習していくこはとても有用なことです。でもそうした予備知識をもとに句のイメージまで作り上げてはいけません。 なぜなら有名な吟行地の風土や歴史に立脚した句は詠み尽くされているので、たいていは類想になることが多いからです。
先入感に縛られているとどうしても、視点が限られて他のことが見えなくなりやすいです。 個性的な句を授かるためには、誰もが詠みそうな題材は避けて自分しか発見できないような対象を探しましょう。 その意味でも予習は予習とわりきって白紙でのぞむ方が新しい発見に出会える確率が高いです。
これらもみなある種の先入感で、そこに執着するとせっかくの出会いを見落としてしまいます。
さきの川西市黒川の里の炭焼き場吟行でも炭窯や炭焼きを詠もうとすると意外と難しかったですね。 それよりも、春泥や行者道、猪が出没するという冬河原との出会いに着目した方のほうが佳句をものにされています。 これが吟行の一期一会なのです。
広々として見所の多い場所はどちらかと言うと吟行向きではありません。どうしても目移りするのであちこち移動し結局は表面的に見えることしか捉えられないからです。
吟行と観光とは全く違うということを覚えて欲しいです。とはいっても初めてのところは、出来るだけたくさん見てみたいですよね。 そこで、時間配分にメリハリをつけて、ここというところを早く見つけて俳句モードで先に必要な句を詠んでしまいます。 そのあと、観光モードに切り替えてゆっくりと楽しめばいいのです。中途半端は一番良くないです。
そんな器用なことは出来ないと思われるでしょう。ところが短時間で多作する訓練が出来ていると簡単にこれが可能になるのです。
多作方式の場合、吟行や句会の時に一句として未完成であった作品もたくさん残っています。これらを見なおして推敲するのです。 冷静に作品を見直すことでことばの配置を換えた方がよいと気づいたり、句会の時には思いつかなかったような措辞に気がつくということもあります。他のメンバーが詠んだ作品から学ぶことも多いはずです。
吟行の目的は材料を仕入れること、吟行句会というのは練習道場みたいなものです。 むしろ、そのあとでどのように仕上げて作品の完成度を高めるかということに心血を注ぐことが重要です。推敲に推敲を重ねることで光り輝く作品に仕上げましょう。
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