2024年度の合評は、故臼井菜々さんの句集『星月夜』の作品を鑑賞することしました。
菜々さんは、枚方チームの一員として満天さん、はく子さんらと共に参加されるようになりました。どちらかといえば寡黙な方でしたが、俳句への思いは誰にもまして熱く、努力家の彼女の作品には他を圧倒する力がありました。
句集『星月夜』は、毎日句会、定例句会、吟行句会のみのる選約二千句の中から厳選に厳選を重ねて抽出された450句です。一句一句は彼女の作品ですが、句集全体から醸し出される イズムを吸収していただくのに、これにまさる教材はないと考えました。
作品鑑賞(合評)を始めるに当たり菜々さんのお人柄について覚えていただきたいので、句集『星月夜』に載せたみのるの序文を再掲しておきます。
以下、句集『星月夜』の序文より転載
大阪府枚方市の臼井菜々さんも又句集を纏められることになった。
彼女とのご縁が生まれたのは関西エリアのメンバーたちが自主的に誘い合って吟行句会を初めた頃であったと思う。当時から句仲間の中では頭ひとつ抜けた存在で、格調高いその表現力から既にある程度の実力の持ち主であることはすぐにわかった。
月の浜松影濃ゆく落しけり
坂がかる芦屋の家並風薫る
菜々さんの作風を語るにあたってまずこれらの作品を揚げておきたい。いずれも素晴らしい写生句ではあるが、彼女の探求心はこのレベルではまだ満足できなかったのである
あるとき彼女は私の先輩の作家とともにかつらぎ庵で阿波野青畝師と一緒に写った一枚の写真を差し出した。彼女もまた青畝師とのご縁があったのだ。前出の完成した写生句でもなお足りなさを感じるのは先生の薫陶のことばが彼女の中に生きていたからだと思う。
いぬふぐり休耕田に世界地図
紅葉山夕日を帯びて炎上す
しがらみのあぶくは音符水温む
そしてこれらの作品が彼女の出した答えである。
前作と異なる点は作者の心が豊かに遊んでいること、わかりやすく例えれば裃を着て威儀を正して詠んだ作品と改まることなく幼子のような好奇心で素直に心を開いて詠んだそれとの違いというふうに言える。
つばくらめ山紫水明袈裟懸けに
満天の星へ合唱庭の虫
いづれも融通無碍といわれた青畝師の作風を思わせる作品で抜き出せば枚挙にいとまがない。こうした作品を生み出す彼女の作句姿勢にも学ぶべき点があるので触れておきたい。
散る花に沈思黙考一詩人
菜々さんは吟行のとき一人離れて静かに作句されるタイプ、この作品は彼女の自画像である。
対象物と心を通わせて彼らのメッセージを聞くためにはしっかりと立ち止まらなければいけない。これはとても大切なことで、私もそのむかし吟行のとき先生がどこで立ち止まり何を見ておられるかを遠く離れて観察したものである。
草矢打つ小さくなりし夫の背へ
最後に菜々さんにも又彼女の俳句を理解し優しく応援してくださるご主人がおられることを紹介しておきたい。最近足の弱りを理由に吟行の限界を洩らされることが多いが、菜々さんにとって吟行のない俳句生活は考えられない。自分のペースを守りながらでいいので私達の良きお手本として続いて先頭を走ってほしいと願ってやまない。
句集の序を借りて随分身勝手なことを書いたことをお赦し下さい。
平成三○年七月吉日 やまだみのる
序文転載ここまで
2024年の秀句鑑賞は、菜々句集『星月夜』から一日一句をアップし、みなさんと一緒に合評していきます。
やや難しい作品が続きましたので二の足を踏まれていた方も多かったと思いますが、今回はすべてが「みのる選」なので馴染みやすいと思います。よりたくさんのメンバーが合評に参加してくださることを願っています。