やまだみのる
やまだみのる
俳句は物や風景をよく観察し、そのありさまを絵のように17文字の中に写し取る文芸だと言われます。
このような俳句の作り方を「客観写生」と呼びます。写生の手法を確立させたのは正岡子規ですが、松尾芭蕉、与謝蕪村もまた、その先駆けとも言える作品を多数残しています。
でも写生と報告とは紙一重、論理としては納得できても実践するのは至難です。
この極意を具体的に説明できる事例をと探していたところ、淡路島の俳人である「大星たかし」先生から、贈呈の小句集が届いた。その中で自解されている添削例、推敲例が実にわかりやすかったのでご紹介します。
原句>浜の家でて踊子の急ぎけり
揚句は、四国阿波踊り吟行での作品で、海浜での踊りに加わろうと急ぐ踊子の姿を写生したものである。原句のままでも写生の句として十分と思われるが、阿波野青畝先生は次のように添削されたそうです。
添削>浜の家でて踊子の走りけり
「急ぎけり」は主観、「走りけり」は客観写生だということが解りますね。
もう一句見てみましょう。
ストーブに干物を焼きて教師酌む
大星たかしさんは中学校の教員でした。夜遅くまで残業したあと、島の漁師から差入れされた干しするめをストーブの上で焼き、ささやかな酒を酌みながら熱く教育論を語り合っている教師像が見えてきます。
たかしさんが最終的に句集に載せられた作品は次のようになっていました。
ストーブに干物を反らせ教師酌む
焼きて…は説明、反らせ…は写生です。
ストーブの上の干物の変化まで目に浮かぶようです。客観写生を理解するのに格好の例句ですね。
(2000年08月09日)