1 畝うねの清めの塩や霜おりる
2 寒卵ひかりに命透かし見ゆ
3 吾も鳥も影絵劇めく枯田道
4 診察に籠いつぱいの厚着かな
5 恋をする丹頂の舞銀世界
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6 防災無線と共に黙祷阪神忌
7 漆喰を詰めしひびなほ阪神忌
8 繭玉のしだれて障子ほのあかり
9 猫連れて進まぬ散歩日脚伸ぶ
10 結果聞くマスクの医師の声こもる
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11 窓明る浮雲淡し寒の朝
12 阪神忌三十歳の子と語り
13 コンビニのおでんの匂ひ冬に入る
14 火付けされあはれまくろや枯れの芝
15 寺内墓地植え込み飾る寒椿
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16 傍若無人ほこり舞い立て空つ風
17 八千余粁飛んでトルコの寒の朝
18 亡友のジョーク想起す阪神忌
19 庭先に紅白揃ふ花椿
20 冬空に残響高く槌の音
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21 末黒野の果てまで朝日届きたり
22 庭先に猫のうら声春隣
23 診察の待合包む冬日かな
24 クリニックは今日空いていて浮寝鳥
25 帰る子を迎ふ四温の白き壁
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26 忘れないあの日の事を阪神忌
27 願掛けのきつねの張り子どんど焼く
28 鎮魂の鐘響く街山眠る
29 をさな子は父となりけり阪神忌
30 悴む手おのが首あて朝歩き
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31 寒風中犬連れ故に外カフェ
32 幾年の命を秘める裸木や
33 悲しくて動けなかつた冬の朝
34 主なき庭に一輪冬の薔薇
35 金盥ときおり跳ねる寒の鮒
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36 来客の歓声上ぐる掘炬燵
37 除雪車を聞き分け急ぎ起きる妻
38 豚汁は炊出しの味阪神忌
39 アカペラの歌も飛び出し新年会
40 春どなり電車で化粧紅までも
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41 よりそうの字のまたたきて阪神忌
42 メレンゲのよく角立ちて寒卵