みのる:「一幅」は掛軸のこと、基本的には掛軸は『幅(巾)』(「ぷく」もしくは「ふく」)と数えます。唐の名墨は中国製の有名な墨のことですが中国の有名な人の墨書を指しているのかもしれません。王羲之とかは有名です。鶯の句のむべ解にあるような唐の詩人・杜牧が詠んだ七言絶句「千里鶯啼緑映紅」などが書かれた家宝の巻物かもしれないですね。「床の春」はお正月向けに整えられた床の間のことです。

澄子:こちらの御句はよく判かりませんでした…………拝謡しぱっと思い浮かんだ事は、作者はお茶をなさる方でたいへん格式のあるお茶席に招かれその折の床の間の景を詠まれたものかと…………。一幅は掛け軸 中七「唐の名墨」をどう解釈するかですが…………唐の時代例えば顔真卿のような後の世に名前を残した人の漢籍の掛け軸を想像しました。お軸に見入る作者の姿、床の間の誂えも 例えば漢詩に因んだお花が活けられてるのか等々…。然しながら かえるさんの合評を拝読し中国産のよき墨で画かれたお軸をかけ新年を迎えている…… こちらの方が無理がないように思われました。中国産の墨を唐墨とも呼ぶようで 寿命が長く年を経て力強さと厚みが増し 美しい滲みもでて趣深いそうです。

かえる:中国の古墨は年月を経てもなお力強さ、美しさ、味わいが増す素晴らしい品であるようです。昨今は大量生産の弊害で品質が落ちてしまったようですが、名墨とあるので、古来の素晴らしい墨で力強く繊細に描かれた中国書画なのでしょう。普段は大切に保管していて、毎年お正月のために恭しく取り出して、床の間に掛けているのかと想像します。少し離れたところから、掛軸が傾いたりしていないか入念に確認しつつ、準備万端整った床の間に、新たな年の息吹を感じておられるのではないかと思いました。

むべ:床の間に掛けられた掛け軸のことでしょうか。「一幅は」とあるので、二幅、つまり一対なのかもしれません。「唐の名墨」は、迷いましたが唐の時代の墨ではいくら古墨と言っても古すぎますので、和墨ではない唐墨(中国産の墨)の意味にとりました。おそらく一幅には初春を寿ぐ華やかでおめでたい絵画が描かれており、もう一幅には墨痕鮮やかに文字が書かれていたのではないでしょうか。賛のように、絵画に関連のある漢詩のようなものだったかもしれません。一対で味わうと、より深く絵の世界観が理解できるのだと思います。床の間にじっと対峙している作者の姿を思い浮かべました。