みのる:「落つるに任せ春眠す」なら三人称ですが、「春眠し」なので一人称として鑑賞するのが正しいと思う。椅子に座って読書をしていたのですが睡魔に襲われて前かがみに舟を漕ぎ始めたのでしょう。眼鏡が鼻からずり落ちそうになるところまではうつつに意識があるのですがそのまま椅子の背に凭れて春眠に入ろうとしているようですね。
えいいち:日向で本など読みながらうとうとしはじめると眼鏡のずれを直すのも面倒なのですね、眠いのでしょう。そっと寝かせておきたい気分になります。
澄子:ユーモラスな……作者のお茶目な一面を知る思いです。近距離に焦点をあわせた老眼鏡をうんとずらして下のほうで掛けると目線をおろした時には老眼鏡、メガネのフチの上からは裸眼……そういう老眼鏡の使い方を俗に「鼻メガネ」というそうで これは御自分の春眠に抗えないお姿を「落つるにまかせ」とお詠みになられたのかなとも思いました。春眠への抗い難さを鼻めがねに託し なんとも長閑な一コマを想いました。
むべ:眠そうですね。鼻めがねが落ちているのも気づかないほどに…「春眠し落つるに任す鼻めがね」でも良さそうですが、鼻めがねが上五にあるインパクトが掲句の肝ではないでしょうか。味わう者をぐいと引き寄せる力があり、なんだろう?と思わせます。下五に春眠しという季語が現れ、最後に答えあわせができ、なるほど、納得…となります。
康子:私も眼鏡を掛けていますが、この日常が句になるとはまたまた驚きです。電車などで下を向いて寝ている時は眼鏡がずり落ちます。確かに眠くて面倒でそのまま寝ていることもあります。ぽかぽかと春の暖かい日に当たりながら、眠さに勝てないでいるのでしょう。「落つるに任せ」の表現が面白いです。「春眠し」の季語をコミカルにそして具体的に詠んでいることに感服しました。
かえる:私も近眼(老眼?)眼鏡っ子なので、くすっと笑ってしまいます。春の温さに頬杖ついてうとうとして、眼鏡がずり落ちているのでしょうね。おそらく、肘がずるっとなって眠りが途切れ、一瞬目が覚めるものの、春の眠気は強烈で、鼻眼鏡のまま再び眠気が打ち寄せて。強烈な眠気の誘惑に抗っている人を、作者が冷静に観察しているのではないかと思いました。