えいいち:子供の頃は祖母がかめに手を突っ込んでしょっちゅう掻き混ぜていました。梅雨時はカビないようにとよく混ぜて様子を見ているのでしょうか。仕事柄よそ様の台所を拝見する事が多々あるのですが糠床の樽やかめなど見たことがありません。作者は本当に台所仕事がお得意なのですね。糠床を手入れしている姿を想像すると糠や味噌、醤油の入り混じった台所の独特の香りを思い出します。
みのる:「糟糠の妻」ということばがあります。またぬか床をもってお嫁に来たというようなドラマもありました。お母さんの味、家庭の味など同じぬか床でもそれぞれの個性があるのです。俳句と同じですね。いつも季節感覚のアンテナを張っておけば日常の身辺からも句が拾えるのだというお手本です。
澄子:私自身は発酵食に興味をもち 日々の食生活にそれらを取り入れている方だと思いますが 糠床だけは非常に繊細で上手く管理できずあきらめて今日に至ります。冷蔵庫で管理するも場所塞ぎですし つけこんだ野菜を引き上げ忘れそのままにしてしまった事もしばしば…………要するにズボラな性格の私には所詮無理だったというだけなのですが 御句上五「梅雨最中」より糠床は常温で保存されていらしたかと思われます。糠床に住む菌のバランスを整えるため夏なら一日2.3回かき混ぜるとか…………とてもきちんとされた方でいらした事があきらかで 以前取り上げられた牡蠣を焼く七輪の御句と共に家族を気遣う作者のお人柄が偲ばれました。
康子:我が家にも糠床がありますが、特に梅雨時は大変です。「最中」の措辞がそれを表していると思います。我が家は冷蔵庫に入れていますが、常温では1日に2回くらい混ぜます。糠床は生きているので混ぜないとカビますし、混ぜることでさらに美味しくなります。ちなみに混ぜるのは必ず素手で…。少しくらいのカビなら取ってしまえば大丈夫ですが、放っておくと不味く酸っぱくなります。そしてもし新しく作り替えるとなると自分の味にするまでが大変なので、人から分けてもらいます。私は母から分けてもらい、私は娘に分けました。そうやって我が家の美味しい糠漬けができるんですよね。そんな日常が句になるということが驚きでした。「怠らず」により我が家の糠床に対する愛を感じ、梅雨時の家事の大変さが感じがよく伝わる句だと思いました。
むべ:糠床は毎日混ぜて空気を入れてやることが大切だそうです。特に梅雨時はカビが生えやすいので、他の季節より注意が必要で、作者はいつにもまして念入りにお手入れをしているのです。日本特有の梅雨という季節が、糠床を通してリアルに感じられます。そして、ご家族の好物である糠漬けを食卓に並べるため、子どもを育てるように愛情をこめて糠床を手入れし、丁寧な暮らしぶりが伝わってきます。
かえる:夏野菜は糠と相性抜群ですし、魔法のようにおいしくしてくれます。夏は糠の力も漲り、発酵する力も増しますが、その反面湿気には弱いので、すぐにカビたり、過発酵で酸味がでてしまったりと、梅雨時の管理はなかなか厄介です。作者は本格的な夏の到来に向けて朝に晩にとかき混ぜ、異臭はしないか、カビたりはしてないかと、少しの異変も見逃さず丁寧に糠床の管理をされているのでしょう。それもこれも家族に美味しい糠漬けを食べさせるため。愛情に溢れた素敵なお母さんです。