みのる:炭焼きは冬の季語になるので陶芸窯の可能性が高いですね。背景に山があるので菜々さんの行動範囲から想像するに丹波の立ち杭焼かなと思います。季語の山笑う…は、広辞苑では「春の芽吹きはじめた華やかな山の形容」とあり「春山淡冶にして笑ふが如く、夏山は蒼翠にして滴るが如し。秋山は明浄にして粧ふが如く、冬山は惨淡として眠るが如し」から来ているらしい。せっかく芽吹こうとしてるのに煙たくてたまらん…とばかりに山が笑ってるよ…という感じにも連想でき、童話のようなのどかな里山の景が浮かびます。
えいいち:この句から目に浮かぶのは山の木々は芽吹き始め仄かに明るい色が目立ち鳥の囀りもよく聞こえてくるようになった山とその山間からひとすじの煙が立ち上がっている、という光景です。作者は山の中ではなく遠目に春の山を眺めているように思います。風も無くまっすぐにゆったりと昇る炭焼の煙に厳しかった冬の終わりと穏やかな春の始まりを感じます。
澄子:例えば日本画家河合玉堂の描くような端正な水墨画を思い浮かべました。風もない穏やかな茶系の濃淡の早春の景。窯煙……迷いましたが斜面に造られた登り窯 穴窯から昇る煙としました。私の記憶のひきだしから 谷戸のような古くから窯元が点在する里で その里を俯瞰一望する所から対岸の窯煙を見つめているように思いました。
康子:「窯煙」について分からなかったので調べてみました。山の斜面を利用して作られた「登り窯」というものがあるらしくその煙かもしれません。陶器を焼いているのでしょうか…陶器は焼き上がるまで仕上がりが分からないのでどんな物が出来上がるのかな、と思いながら山を見ているのかもしれません。花や草木が芽吹き、鳥が囀る春の山に一筋の煙がまるで絵に描いたように美しかったのでしょう。芽吹いていく山と、陶器などを焼成している煙…前向きの気持ちが想像できる句でした。
むべ:まだ寒さの残る、けれど山の木々の芽吹きが感じられる春、山から煙が一筋立ち上っています。窯とは炭焼きの窯でしょうか。一筋という措辞から、風のない穏やかな天気であることがわかります。寒かった冬が去り、山にも明るさが戻ってきました。作者の心も明るく平安があるようです。
かえる:陶芸家にとって夏冬は難しい季節のようなので、春は焼き窯が活発に煙を吐き出す、活性化の時期なのでしょうね。窯煙が山に立ち上る様子を見て、作者は春の到来を実感し、心が浮き立ったのだと思います。ほんの小さなきっかけでも、春を感じさせる事柄は、なんと日本人の心を弾ませることか。春に浮き立つ心模様が素直に伝わってくる句だと思いました。