あひる:鴨が三冬の季語。鴨が水面から翔び立った写生ですが、ズームアップして水面の漣に目を向けたところにオリジナリティーを感じます。その漣の上を「さ走りて」と表現したことで、身体が軽いとは言えなさそうな鴨が思いがけない身軽さで滑走している様子が目に浮かびます。驚いて見ている作者の前で、鴨はみるみる高く飛翔していったのでしょう。どこへ移動したのか、冬空に翔んでいく鴨との別れにかすかな寂しさも感じます。

澄子:「鴨」が三冬の季語。私は実際 鴨の離着水を見たことはありません。おそらく迫力があり鴨の変幻する羽の色 水しぶきや雫の燦めき等凄まじくも大変美しものと想像致します。先ず心惹かれたのは御句の端正さ。(動)を詠まれてますが 寧ろ文人画のような明るさ、軽やかさ、静けさを感じました。例えば旧家の奥座敷にこの御句が短冊として奉られているようなそんなイメージです。「漣」「さ走り」「鴨」「翔つ」それぞれポイントになる言葉の最初の一音がaという韻となって気持ちよく心に響きました。(翔)の字も鴨の羽ばたきを美事にあらわしていると思いました。

かえる:鴨が三冬の季語ですが、この句では旅立ちの飛翔のようにも感じられるので春が近いのかもしれません。鴨が漣を起こしながら水面を滑る様子は、陸上選手の助走を思わせます。そこから飛び上がる瞬間を見事に切り取っていると感じました。水上の移動の様子をさ走ると表したことで、躍動感やスピード感が際立ち、そこからの飛翔がさらに力強いものになっています。とてもリズムの良い句だと思います。

せいじ:鴨が三冬の季語。漣の立つ池面を滑走路にして、鴨が二三羽、競うように飛び立つさまが見える。向かい風を利用しているのだろうか。走るのは遅そうな鴨だが、意外にも速いことに驚いているのだろう。「さ走りて」にそのスピードがよく表されていると思った。

えいいち:鴨が三冬の季語。鴨の足には大きな水かきの膜があるから翼を羽ばたかせながら水面を走る事が出来るんですね。水面は漣ですから風のない絶好の離陸日和というのでしょうか、まるで飛行艇のように水面を滑走して次第に宙に浮いていき空に舞い上がる光景がよくわかります。その鴨は颯爽として飛び立って行ったのでしょう。

むべ:「鴨」が三冬の季語。「さ走る」はすばやく動くという意味だそうです。さざ波が立っている水面をすばやく助走したかと思ったら、鴨があっという間に飛び立っていった、ということでしょう。ところで、「さ走る」が本当に助走を指しているなら、この鴨はもしかしたら陸ガモではなく海ガモかもしれません。昔ガンカモ類がたくさん来る湖や森が多いところに住んでいたのですが、陸ガモと思われほとんど助走なしでいきなり水面から高角度で飛び立っていました。鈴鴨、黒鴨など海ガモは助走をつけて低い角度から少しずつ高度を上げていくそうです。助走があるほうが優雅で、大自然の中に身を置いている感覚がより深まり、鴨の種類によっては、周囲の景が湖沼・池沼なのか、海に流れ出る河口なのか、想像が広がります。