澄子:「咳く」が三冬の季語。演説も佳境に入り派手な身振り手振り……拳を振り上げたまではよかったのですがそのまま咳き込んでしまった……そんな一瞬を捉えたものだと思います。じっと演説を聴いていたというより 冬の雑踏の景として通りすがりに目にした印象的な情景かと想いました。中七「握り拳」が言葉の響きとして強くまた熱くて 冬の冷たさとの落差を際立たせていると思いました。

かえる:咳く、が三冬の季語である咳の子季語です。演説に熱の入るあまり、大きく息を吸い込んだ際に、嫌というほど寒気を取り込んでしまったのでしょう。振り上げた握り拳を思わず胸に当て、苦しく咳き込む。朝の駅前で行われる選挙活動。毎朝の風景と化しているため、足を止める人はなく通勤通学の群れは非情に通り過ぎていくばかり。そんな光景が浮かびました。握り拳に込められた熱と、冷たい咳が対比を成しているように感じました。

あひる:咳くが三冬の季語。冬の朝、駅前の広場で街頭演説が始まっているようです。通勤客は演説士をちらっと見ては立ち止まらずに、駅の構内へ流れていきます。振り上げた拳を思わず口へ当てて咳をする演説士。冷たい空気に思わず咳込んだけれど、その数秒の間に気を取り直そうともしています。作者のカメラのシャッターがその瞬間を捉えたような、寒い朝の一コマが見えます。

むべ:「咳く」が三冬「咳」の子季語。選挙を前に街頭で演説をしている、立候補する議員の応援弁士のことを思い浮かべました。右手には拡声器、そして左手は熱が入ってぎゅっと握って挙げていたのですが、そんなときにエヘン虫が…彼は解くことなく握り拳を口にあて、咳込みました。ちょうど佳境に入っていたのに、咳に中断されてちょっとかわいそうと作者は思ったかもしれません。風邪や乾燥した空気など、喉を痛める様子は冬らしいです。

せいじ:咳くが三冬の季語。選挙の街頭演説であろう。冬の寒さの中、寒気を吸い大声をあげ続けたために喉がかすれて咳が出たというよりも、中七の表現から、人の注意を引くためにわざとえへんと咳ばらいをして演説を始めたと見た方が俳諧味があるように思うがどうだろうか。演説士はおそらく男性であろう。どこか高飛車な態度が見え隠れしている。

えいいち:咳くが三冬の咳の子季語。冬の街頭演説でしょうか、上五中七の措辞から力強く演説をぶっていたのだろうと思いますが咳き込んでしまい体調は大丈夫かしら、と思ってしまいます。その姿を想像すると聴衆がだんだんと去っていくようにも見え少し寂しい風景に感じました。