澄子:季語が「寒」なのか「寒釣り」なのか判りませんでした。「寒」そのもののような気もします。漢籍のように 金輪際寒釣師不言 漢字を並べるだけで意味が通じます。冬の身を斬るような厳しい寒さのなかで 視界にいるであろう他者といっさい視線を交わすこともなく 黙々と長時間釣りそのものに熱中する近寄りがたい様や 「金輪際」という上五に 獲物を釣り上げるまでは諦めないぞという決意や焦り、微かな苛立ちの気配を感じました。冬波轟く防波堤より 凍った湖での景が浮かびました。 

せいじ:寒釣が晩冬の季語。寒釣をしている人たちを、かなり長い時間観察しているのだが、不言不語を誓った修行僧のように見事にしゃべらない。太公望のようにじっと釣糸を垂れて動きもしない。「金輪際不言」の措辞が見事で、しんと静まり返った厳寒の釣場の様子が目に浮かんでくる。

かえる:季語に迷いました。寒が冬の季語だとは思うのですが、釣り師まで含めて季語になるのかはわかりませんでした。ご容赦ください。漁師ではなく、趣味の釣り師を思い浮かべました。釣果を競っているのか、釣り場を巡る争いなのか、互いにそっぽを向いている釣り師たち。金輪際話などするものかと思ってはいるものの、どちらも相手の気配は気にしている。相手の竿に魚が掛かった気配にヤキモキし、バラしたとわかるとホッとして。同じ趣味を持つ同士だからこそ、気に触る時はとことん嫌になるのではないでしょうか。ひょんなきっかけで、また仲直りするのだと思います。

あひる:寒の釣師が寒釣りと同じ晩冬の季語だと思います。阿波野青畝師の「もの問へば寒釣きげんわるかりし」という句が歳時記に記されていました。釣師は暇そうに見えても魚との駆引きに神経を集中しているのかも知れません。またはしみじみと大自然と対話しているのかも知れません。人声がすると魚がよって来ないと聞いたこともあります。いずれにせよ、金輪際と不言という措辞に近寄り難い釣師の雰囲気と寒々とした晩冬の風景が浮かびます。

えいいち:季語は寒の釣師でしょうか。「金輪際」という措辞から釣師らは糸を垂れ始めると一点集中、誰も言葉を発しない真剣勝負という感じです。師という表現から趣味でなく漁猟をしている方たちなのでしょうか。厳格な釣師の魂が見えるようです。季語である寒の釣・・の措辞よりなお一層「不言」もの言わずの雰囲気が伝わってきます。気温が低くて釣師の体や水面からもわもわっと湯気が立っているような光景が思い起こされました。

むべ:「寒の釣師」が晩冬「寒釣」の関連季語でしょうか。場所はどこだろうと想像すると……釣り人が何人か間隔をあけて釣りをしているなら、渓流や湖沼というより堤防(海)かな?と思いました。ともあれ、寒いからか、はたまた浮きに集中しているからか、みな決して口を開こうとしないのです。吐く息だけが白く見えるのですが、言葉は発せずに、静かにアタリを待っています。もしかしたら、今日は潮が変わってもあまり魚があがってこないのかもしれません。副詞としての「金輪際」は強い決意や確信を表す言葉だそうです。また、「金輪際」と「不言(ものいわず)」という措辞が、この句に漢詩のような格調高さを与えていると思いました。釣果やいかに……