むべ:「懸崖菊」が三秋の「菊」の子季語ととりました。関東では菊花展で見られるくらいですが、懸崖菊は古くから京都の秋を彩る仕立てで、旅館やホテル、料亭、ショッピングモールなどに飾られているそうです。検索してみたところ、見事な画像がたくさんヒットしました。さて、菊には花虻や蜜蜂がよく訪れます。ここでは、中七・下五の「懸崖のぼりつめんとす」から、クリスマスツリーのようなロウソク仕立てを想像しました。下から上へ、もう少しでてっぺんへ、虻がせっせと花粉や花蜜を求めて働いています。秋の香りが漂い、虻だけでなく人間も懸崖菊に引き寄せられるようです。

あひる:菊といえば秋を代表するような花です。どこかの広場で展示されている菊花展かも知れません。ふと気付くと懸崖菊の花の表面を虻が登っています。落っこちそうにえっちらおっちらという動きです。この崖は虻には結構な冒険かも知れません。思わず見守り、心の中で応援してしまいます。作者以外の他の見物客は、この虻の小さな大冒険に気付いていない、秋の菊花展のひとコマを思い浮かべました。

せいじ:菊が三秋の季語。作者は虻が懸崖菊の下の方から少しずつ上っていく様子を眺めていたのであろう。今まさに上り詰めようとするその瞬間を描くことによって、虻のそれまでの行動をも思い描くことができるようにしている。菊が季語だが主役は虻であろう。懸崖菊を舞台として虻の動きが生き生きと描かれている。

えいいち:菊の子季語に懸崖菊を掲載している歳時記もあるようです。懸崖菊の香に寄せられて飛んできた虻が崖の下の花から順繰りに上の花へ上の花へと留まりながら、ついに一番上までやってきました。虻の菊花から離れずにのぼって行く様子と作者の懸崖菊に魅せられ眺め続けたい気持ちが重なるようです。美しい色合いと香りの見事な懸崖菊が秋晴に並ぶ姿が目に浮かびます。

えいじ:「菊」は、三秋の季語です。虻が懸崖仕立ての垂れ下がる先端から菊の花々をのぼれるだけのぼって、今まさに一番高い上に達しようとするその瞬間を詠んだ句だと思います。「虻」は春の季語ですが、ここでは菊が咲く様をイメージさせる使者であり、この句の主体は美しく丹念に仕立てられた「菊」にあると思います。宜しくお願いいたします。