むべ:「台風裡」が仲秋の季語。旧約聖書に記述のあるノアの洪水。ノアは神から命じられ箱舟を造船し、家族やつがいの動物たちと乗り込みます。そしてその後大洪水が起こり、ノアたちは箱舟の中で一年余りを守られて過ごします。押し寄せる大水の轟音を聞きながら、家族で励まし合っていたことでしょう。緊張や不安がなかったと言えば嘘になるかもしれません。そのような心持ちでも、神により頼むことができる…作者の祈りも感じる一句です。

あひる:大型台風のニュースがあると、ガラスが割れて大変なことにならないよう、雨戸も閉めて家の中に籠ります。吹き荒ぶ音や激しい雨の音はそれでも聞こえてきます。停電などあれば真っ暗、本当にノアの方舟を連想してしまいます。九州地方の大雨で実家から大阪に戻れなかった日、つい私も聖書の「四十日四十夜やまなかった雨とノアのこと」を思ってしまいました。

せいじ:台風裡が仲秋の季語。旧約聖書の創世記には「大雨は四十日四十夜、降り続いた。…水は百五十日間、地の上に増し続けた。…水は百五十日の終わりに減り始めた。…(減り始めてから)四十日の終わりに、ノアは自分の造った箱舟の窓を開き、烏を放った。」とあり、ノアもずっと窓を閉めていた。作者もノアと同じように窓を閉め、ノアの気持ちに思いを馳せながら、恐怖心と闘っているのである。猛烈な台風襲来にあたっての緊張感が、ノアを引合いに出すことによってよりリアルに伝わってくる。

えいいち:「台風裡」が仲秋の季語。台風養生で窓を閉めていてノアの箱舟のノアの気持ちをふっと思ったのでしょう。徐々に強まる風雨のなか家長として家族を守ろうという使命感を感じます。