あひる:秋の蝿は夏の蝿より少し元気がなくて寂しげな雰囲気です。乗船のどさくさに紛れて、誰かの荷物にくっついて二等船室に入ってきたのでしょうか。行き先も知らずに乗ってしまったこの蝿、ひとりぼっちで、あちらの港に着いたらどうするつもりか。自分も一人で雑魚寝の船客となっている作者が、蝿に親近感を持ったとも考えられます。

せいじ:秋の蠅が三秋の季語。車はないのだが、鉄道よりも運賃が安いので、フェリーで九州に帰省したときのことを思い出した。乗り込むのが遅くなって、畳敷きの大広間に場所を確保することができず、通路で雑魚寝することになったのだが、こんなことなら鉄道にすればよかったと後悔したものである。このわびしさは秋の蠅のうら寂しさにどこか通じるものがある。

むべ:「秋の蝿」が三秋の季語。フェリーでしょうか、作者は船上の人です。それもベッドのある一等船室ではなく、カーペット張りの床に思い思いに体を横たえて二等船室の船旅です。いつの間にか蝿が紛れ込み、あちこちで厄介払いされて、作者の近くにも飛んできました。やや元気がない蝿のようで、逃がしてやりたいのですが、船が揺れてなかなか捕まえることもできず…やれやれ、下船までしばし旅の相棒でいることにしましょう。

えいいち:「秋の蠅」が秋の季語。私の知る二等船室は大広間の畳敷きで乗客はグループごとにまとまったり、一人ポツンと座り込んでいたり、寝転んでいたのを思い出します。二等ですから仕事等で乗り慣れた人たちが多くゴロン横になって休んでいますが、作者にはその姿が少しもの寂しげに見えたのでしょう。