せいじ:鈴虫が初秋の季語。輪唱とあるから、リーンリーンという同じ鳴き声ながらも若干音色が異なる二匹以上の鈴虫が、等しい間隔をおいて追いかけるように鳴いているのであろう。二匹かな三匹かなと耳を澄まして聞いていると、美しい声に心を奪われて執筆どころではなくなるのである。鈴虫への賛歌ともいうべき句である。

えいいち:暑い夏も過ぎ凌ぎやすくなった夜に何か執筆中の作者は窓辺から聞こえて来る鈴虫たちの音にふと気が付きます。心地よい鳴声がこちらからそして次はあちらからと輪唱の如く響いてきてその綺麗な歌声に聴き入って筆も止まる情景が浮かびます。心落ち着く静かな秋の夜ですね。

あひる:秋になると住宅街でもいろいろな虫の声が聞こえます。子どもが小さかった頃、鈴虫を飼ったことが何回かあります。鈴虫は確かに輪唱をしますね。きれいな声を聞き逃すまいと、水仕事をしている人は水と手を止め、何かを書いている人はペンを休め、短い命を懸命に鳴く鈴虫に耳を傾けます。懐しい光景がよみがえりました。

むべ:「鈴虫」が三秋の季語。静かな秋の夜に、書斎で執筆中の作者の背中が見えます。窓は網戸になっていて、聞こえてくるのは庭の虫の声。リーンリーンとひときわ美しい鳴き声に、作者は文章を推敲する思考をとめ、ペンを持つ手もとめて、聞き入っているのです。「虫」という季語もありますが、この句では「鈴虫」と具体的な季語を用いることで、味わう側はどのような音色なのか想像しやすいです。「蟋蟀、松虫、轡虫」等々虫の季語はたくさんありますが、鈴虫の全音符みたいなリーンが、ゆったりした夜の雰囲気に合っています。