あひる:涼しという季語の力に驚きました。シンプルな言葉が夏の池のひとコマを余すところなく表現していると思いました。大きな鯉が悠々と涼し気な波紋を広げて向きを変えたのでしょう。

えいいち:「涼し」が夏の季語。「凉しく」は鯉の向きを変える様子を形容しています。泳ぐ鯉がいとも簡単に素早く向きを変える様が涼しげなのでしょう。私も公園の池でよく鯉を眺めていますが本当にあっけないくらい簡単に方向転換します。まさに汗ひとつかかない涼しげな鯉の自慢気な顔が目に浮かびます。

せいじ:涼しが三夏の季語。鯉が転回するときの水の音やしぶき、かすかに起こる風、緋鯉ならば緋色の煌めきなど、五感を総動員して涼しさを感じている。鯉が向きを変えるだけでこんなにも涼しいのである。

むべ:「涼し」が三夏の季語。前述の「星涼し…」の句の壮大さとはまた一味違う「涼し」がここにあります。池の鯉を詠んだ句は多く、さらりと詠まれているので見落としてしまいそうですが、何が涼しいのかがみそです。鯉の色や姿ではなくて、「向きを変へ」たという鯉の行動が涼しいのです。水に跳ねたでもなく、口を開けたでもなく……向きを変えたその有様が涼しいなんて……尾びれの様子まで想像できるところがすごいです。長い時間観察していないと与えられない気づきだなと思いました。