あひる:夏、福井県の東尋坊でこの様な風景を見たことがあります。柱状節理の岸壁におびただしい程の船虫が登っていて、驚く私の目の前であっという間に波に攫われていきました。船虫にとってはまさに「不意打ち」です。「攫ひけり」という措辞も一瞬のあっけない情景が印象的に表されていると思いました。

えいいち:舟虫が夏の季語。舟虫の動きをじっと観察していたのですが不意に大きな波が来て蠢いていた舟虫がきれいさっぱり岩肌からいなくなってしまい、作者は驚きと共に残念がっているような情景が浮かびました。涼しい海風を感じます。

せいじ:舟虫が三夏の季語。港の岸壁を這い回っている舟虫たちが突然波に攫われてしまった。熱中してじっと観察していたので、不意打ちを食らったのである。あっ!という声が聞こえるようだ。いなくなった舟虫たちを愛おしむ気持ちがよくわかる。

むべ:「舟(船)虫」が三夏の季語。十代の頃毎夏のように南伊豆の小さな漁村で数週間過ごしていました。波がない日に磯釣りに行くと、岩礁や停泊している船べりにものすごい数の舟虫がいたことを覚えています。舟虫は動きも早いのですが、波はそれ以上のスピードでざばんと舟虫に覆いかぶさり、波が引くとそこに彼らはいなくて……という光景かと思います。岩を洗う波しぶきまで想像できますね。そしてフォーカスは海岸線の岩礁なのですが、視線を移せばそこにはやや波の高い海が広がっているのでしょう。