うつぎ:桑の葉を齧っている間の音は述べられていませんがよく聞こえてきます。昨夏、木之本の糸取りを見学した折りお蚕は子供と同じくらい可愛く囓る音に安堵し繭には労いの言葉が出ると話してくれました。同じ思いがこの句にも含まれているように思います。

あひる:白川郷の合掌造りの蚕部屋を思い出しました。今は一匹の蚕も見られませんが、あそこでたくさんの蚕が雨のような音をたてて桑の葉を食べていたのかと思いました。夏が来てすべての蚕が繭の中に籠もると、それまでの音が消え、羽化を待つ静かな時間が訪れるのでしょう。

むべ:「繭」が夏の季語。蚕が桑の葉を食べる音と、登山用テントに雨が落ちる音がとてもよく似ていると亡き夫が申しておりました。前者は聞いたことがないのですが、後者は何度か聞いたことがあります。ムシャムシャと食べ続けていた蚕たちが、今度は何も食べずにひたすら吐糸し、うつくしい繭を作りました。繭の中で眠りに入り、これまでの賑やかさが嘘のように静まり返った養蚕室。生命の神秘も伝わります。

素秀:蚕が桑を食べる音はかなり激しくて雨が打ち付けるような音がして蚕時雨という言葉もあるほどだそうです。あらかた繭になって棚も静寂に包まれています。

せいじ:繭が夏の季語。養蚕のことは全く知らないので実感はないのだが、がさごそとせわしなく桑の葉を食べる蚕の動きが止まって、すべての蚕が繭になったとき、蚕部屋には深ーい静けさがおとづれるのであろう。作者のまわりにはいま、静けさだけが存在しているのである。

豊実:全ての枠の一つ一つで、黙々と音も立てずに健気に蚕が繭を作っています。