やまだみのる

便利な季語

俳句つくりに行き詰まったときに便利な季語を知っていると重宝です。

例えば夏の季語の中でとても便利なのに『涼し』というのがあります。 これは、どんな言葉にでも付け易いので気軽に使えます。

音涼し、蝶涼し、橋涼し、影涼し、楽涼し、星涼し、月涼し、川涼し、川床涼し

等々いくらでも組み合わせることが出来ますね。 「月涼し」などは厳密に言えば「月+涼し」という季重りですが、 「涼し」という季語のほうが強く働くので一つの季語「月涼し」として夏の季語になります。

あっ!涼しそうだな・・と感じる情景をできるだけ具体的に写生して、 涼しさを感じた対象に「涼し」をくっつけるのです。 常識的な情景に涼しさを感じるのでは当たり前で平凡な句に終わります。 冷房が涼しい、風が涼しい、と詠んでもだれも共感しません。当たり前だからです。 この理屈はどんなケースでも当てはまりますが、 意外性がありながら且つ共感を与えるような情景を発見するのが感性なのです。

俳誌「ひいらぎ」主宰、小路紫峡先生の作品に次のような句があります。

閉店の椅子たたまるる音涼し  紫峡

ぼくはこの句から、ビアガーデンなどの閉店直後の情景を連想しました。 鑑賞する人の体験によっていくらでも連想が広がる句ですが、 沢山の椅子がつぎつぎとリズミカルに折りたたまれて行く「音が涼しい」と感じられたのが 発見でありそれを捉えたのは先生の感性なのです。

このような個性的な感性を養うことが俳句の取り組みの中では最も大切なことで、 俳句の作り方をあれごれ議論したり、わけのわからないような無理な言葉を使って 目新しさを狙ったりというのは正しい俳句の道ではありません。

十七文字の表現の中に作者の意図が明確に伝わってくる作品を見抜いて選ぶこと、 言葉の巧みさや言い回しのテクニックに誘惑されて句を選ばないようにすることも 大切な心がけです。

「涼し」と同様に便利な季語はほかにも沢山あります。 また折々にご紹介しようと思いますが、自分の得意な季語を持っておくのも大切で 吟行でも句会でもどうしても調子が出ず最初の一句が生まれないようなときに、 得意な季語で作ってみたり、便利な季語で作ってみるというような工夫をされるといいと思います。

(2001年5月31日)