みのる:芝には夏芝と冬芝とがあるそうで年中青い芝をたもつために秋に夏芝の上に冬芝の種を撒くウィンターオーバーシードという方法もあるらしい。普通は夏芝なので冬は枯れます。枯芝や草、凍てついている梢の若い芽を、長い眠りからそっと呼び起こす、春のさきがけの優しい雨を「芽起こしの雨」というそうです。主観をまったく見せない写生句ながら作者の春の喜びの気持ちが伝わりますね。

康子:春の雨が降り続き、その一雨ごとにお庭の芝から新芽が出始めている。いよいよ仄と青みが差してきた、という状況なのでしょう。まだ青芝まではいかないが、少しずつ芽吹いているという様子が「春の雨」の季語により伝わってきます。万物に正気が与えられ植物が芽吹き育っていく恵みの雨。有り難く感じながらお庭を眺めている作者が浮かびます。「春雨」とした場合と比べてみると芝の青む様子がより感じると思いました。

かえる:春は、休眠していた芝が目覚める季節です。冬場に一面枯葉色になっていた芝に、ちらほら緑が見えるようになると、春の到来を実感しますね。柔らかい雨が降って、芝の新芽の蒼さが少しばかり際立って見えた。それを切り取られたのではないかと思います。仄の措辞で、春の到来は急激な変化ではなく、緩やかに優しいものであることが感じられます。

澄子:中七の「仄と青さす」が秀逸。水を得た庭芝の微細な変化、これから夏に向け緑を濃くしてゆく様が 簡潔かつ巧みに詠み込まれていると思いました。雨に濡れたその一瞬の微かな変化 移ろい 自然の内包する繊細な耀きをよく捉えていると思いました。