みのる:帰省の季語を「帰省バス」とアレンジできたところが非凡だと思う。大都市から特定のエリアを設定して帰省バスとしてツアーが組まれているのである。他人同士とはいえみな同郷の人たち、あっというまに打ち解けて故郷なまりに逆戻りするのである。私の家内は広島出身、ときどきお友達から電話があるが、忽ち「久しぶりじゃねー、元気じゃった?」

澄子:故郷へ向かう長距離バス内の景。たまたま偶然にも乗り合わせた知りあいかと思われる人達も居たのかもしれません。気がつけばあちこちから聞こえてくるお国訛り……都会生活で封印していた方言が自ずから口をついて出てくる安堵感開放感。ふるさとことばと平仮名でひらき 氾濫という漢字の厳めしさとの対比……久しぶりに聞く故郷の言葉に作者の帰省を待ちわびる家族への思いも募っていったことでしょう………。

えいいち:氾濫す、という措辞が目をひきます。氾濫とは少々ドキッとする措辞ですが作者のユーモアを感じます。乗合の帰省バスで二、三人の同郷友人のグループが幾班も乗っている様です。バスが走り始めると普段の都会の堅苦しさから解放されてゆき徐々に多言語ならぬ各々の郷の訛りのおしゃべりでバスの中が氾濫の如く騒がしくなっていく情景が浮かびます。「ふるさとことば」という平仮名の表記から作者はこの氾濫に親しみと、暖かみを感じ、楽しんでいる様子が伺えます。帰省する人たちの嬉しそうな笑顔も浮かぶこころ温かい句だと思いました。

かえる:長距離の移動で、時間はかかるものの一番コストが安いのはバスなので、作者がごく若い頃のことを思い起こしているのではないかと思います。多分社会人になられてから、短い夏休みの帰郷を楽しみにしておられて。旅費は薄給から捻り出すので、できるだけ安い手段で。バスの乗客は同じ方面に向かっている節約思考の人ばかり。お金があれば新幹線や飛行機を使いますからね。頑張ってお金を貯めて、都会のお土産も持っての帰省なので、気持ちは弾み、乗客間でお国言葉の気安いお喋りも生まれるのでしょう。リラックスしている帰省バス内の空気感が漂ってくるような、素敵な句だと思いました。

康子:日常はもしかしたら方言を封印していたのかもしれません。同郷の方ばかりの帰省バス。一気に親近感が湧き、思う存分地元の言葉で喋っている。話は尽きず盛り上がっているのでしょう。故郷の懐かしい食べ物や、また意外に近所に住んでいたりして…それはそれは盛り上がっているのでしょうね。「氾濫す」の措辞によりその状況がよく伝わります。また「帰省バス」をシチュエーションにし「ふるさとことば」に焦点を当てて、故郷を愛する気持ちを表現したところに感服しました。

むべ:帰省バスとは、都会から地方へ向かう長距離バス(夜行バス)ではないでしょうか。作者は久しぶりの帰省のためバスに乗り込みました。バス内には単身者もいますが、家族連れ、カップルなどもいそうです。しばらくすると、あちこちから会話が聞こえてきます。それが懐かしい故郷の方言なのです。それは日々の街の暮らしではまず聞かない・話さない言葉。都会での生活はどこか緊張感があり、故郷の言葉を封印しています。今、このバスが故郷へ向かっていると思うと、リラックス感の後にワクワクする気持ちが湧いてきて、それがバス内に伝染しているかのようです。方言と言わずにひらがな表記で「ふるさとことば」とするところに、作者自身の故郷に対する気持ちが表れているようです。故郷には良い思い出もありそうでない思い出もあるかもしれません。しかし、それらを併せ呑む郷愁の思いというものを感じます。