みのる:家族が寝静まったあとも何かと主婦の仕事が残っていて遅くなったのです。ようやく片付いて仕舞風呂に肩を沈め四肢を伸ばしてリラックスしているのです。静かに目をつぶると聞こえてくる虫たちの声が「お疲れさま…」と慰めてくれる。ささやかな主婦の至福時である。やがて虫たちのその合唱は「あしたもまた頑張ろうね」と励ましのようにも聞こえるのである。

澄子:17音に余すことなく寛ぎや安堵が表現されています。 夜更け湯殿に四肢を伸ばしつ涼やかな虫の声に聴き入る作者のリラックスされた様子が浮かび上がりました。この御句も平明で簡潔明瞭 言葉の選択が的確で、仕舞ひ湯 四肢延ばす 虫浄土と これらを並べただけでも情景が成立します。 

かえる:主婦の一日は細々したことであっという間に過ぎて行きます。家族を追い立てて全員を風呂に入れた後、一人でゆっくりと仕舞ひ湯を味わっているのだと思います。秋の夜、窓を少し開けて美しい虫の声に耳を傾けながら入るお風呂に一日の汗埃を洗い流したことも相まって清らかな浄土を感じたのでしょう。

えいいち:一日の仕事(家事)を終え、仕舞湯に浸かりゆっくりと手足を伸ばすと窓越しに虫の音を聞いて、極楽だなあ、と言っているようです。今日も一日仕事をやり切った充実感と心地よい疲れを癒してくれる虫の音の気持ち良さと自然に感謝して、また明日も頑張るぞ、と生きる楽しみも作者は感じているように思いました。

康子:家事も終わり、一人のんびりとお風呂で自分の時間を楽しんでいる。虫の声を聴きながら極楽浄土のように癒されている。「四肢を延ばせば」の措辞により光景が浮かんできます。「伸ばす」ではなく「延ばす」としたことにより、自分のためのゆっくりした時間…気持ちの解放感…などが伝わってきます。また「延ばして」ではなく「延ばせば」により虫の声を今、存分に味わおう〜!というお気持ちが想像できました。秋の夜長を感じる句でした。

むべ:「仕舞ひ湯」から、人気のない、夜遅めのお風呂タイムであるとわかります。ご自宅ではなく、旅先の露天風呂、あるいは緑豊かな地域にあるご実家のお風呂かもしれません。作者は一日の働きを終え、ゆっくり湯船に浸かっています。少しぬるめのお湯に四肢を伸ばすと疲れがほぐれます。おや、虫の声があちこちから聞こえてきます。それを聞いていると、なんだか心も洗われていくようです。作者は清浄かつ澄明な心もちで、一日や来し方を振り返っていたのかもしれません。自然の力は偉大です。