みのる:七輪は炭焼が主流であった時代の名残品。ひと昔まえまでは七輪の焼肉屋さんも繁盛していた。秋刀魚とか焼茄子とか今でもこだわり派の人たちのために改良型の七輪が通販ショップで売られている。旬の牡蠣が手に入ったのでご主人により美味しく食べさせたいと思って物置にしまってあった七輪の出番となったのである。主婦の家族愛とたくましさを感じます。品女俳句の「七輪に全長の乗らぬ秋刀魚かな」を思い出した。

澄子:殻付き牡蠣の一番美味しい食べ方をよくご存知の方だったのでしょう。実は私は七輪を身近に見たことも勿論使ったこともなく 時代劇や落語の世界の中のもの。炭火は遠赤外線がガスの四倍もあり火の通りもよく美味しく焼けるそうです。日本伝統のバーベキュー装置ですね……上五中七一気に言い切り 捨てられずにいた古い七輪を使えた安堵感 野外での炭火焼ならでの香り煙にも格別な風情がある事が伝わってきます。

えいいち:古びた七輪を出しての牡蠣焼きはだいぶ久しいことのようです。出番という措辞から懐かしみと楽しみの様子が伝わります。ガスコンロが普及する前にはどこの家にもあったのですが、まだお持ちのご家庭があるのは超珍しいですね。作者は本当にお料理がお得意の様で、さぞかし美味しい焼き牡蠣が頂けそうです。

むべ:殻付きの牡蠣を焼くのに、滅多に使わない七輪を出してきた…という平明な句意。香ばしい香りやじわりと殻に溜まる煮汁など、十七音ながら美味しそうな想像が膨らみます。屋外での炊事になりますが、寒さに勝る美味しさ。また、七輪は作者のライフスタイルの変化に伴い使う機会が減ってきたもので、昔はこの七輪であれこれ焼いたなぁ…という思い出がよみがえる時間でもあったのかもしれません。

康子:牡蠣を焼くのは汁や殻が飛んで大変なので、外で七輪を使って焼くことになった。七輪は物置に眠っていて、もしかしたら処分に困っていたのかもしれません。それを「いま使える!」と喜んで物置から出している作者が浮かびます。「七輪出番牡蠣を焼く♪」のリズムが心地よく、歌いながら七輪を運んでいる様子を想像してしまいました。「古びたる」と「出番」により特別感が伝わり、牡蠣を焼くことの楽しみな気持ちが伝わって来ます。

かえる:食いしん坊には堪らない描写です。炭火で焼く牡蠣なんて贅沢の極み。そのうえに年季の入った味わいのある七輪ですから、目にも鼻にも、もちろん舌にも堪らないことでしょう。寒さに震えつつ、焼き上がる端から胃袋へ。食道から胃の腑に落ちる温みに生きている実感が湧き立ちます。食しては焼き、焼いては食し。時には熱燗も喉へ。おしゃべりも尽きず。冬ならではの楽しい光景が浮かびます。