かえる:炉が三冬の季語です。逆縁の辛さは、想像するだけで胸が潰れそうです。普段は胸の奥に押し殺している恨み辛みが、炉に対峙しながら溢れ出している。このひとはきっと温厚で控えめ。人前で感情を露わにすることなどないのでしょう。その分、溢れでる悲しみややり場のない怒りが炎の勢いとともに強く感じられます。

澄子:「炉」が三冬の季語。救いようのない深い悲しみ苦しさがダイレクトに伝わる胸が詰まるような一句です。「逆縁」「恨み辛み」……とても激しい言葉が続きます。下五「炉に語る」は視線を炉に落としたまま 時に自分自身に言い含めるかのように 火を見つめながら自分の思いを作者に吐露している……そんな情景が浮かびました。その姿はまるで炉に語っているかのようにみえたのでしょう。作者の優しさを感じます。締めくくりの「炉に語る」がとても美しいレクイエムとなって 忘れがたい一句になりました。 

せいじ:炉が三冬の季語。炉端で独り言ちている人がいる。聞けば子どもが亡くなったとのこと。当人にとってこれほどつらいことはない。代わりに自分が死んであげたのにと思うほどであろう。泣くだけ泣いたあと、神さま、どうしてなのですかと、炉火に向かって思いの丈を打ち明けている。砕かれた心に炉火が揺れて応えてくれているかもしれない。

あひる:炉が三冬の季語。逆縁の悲しみは想像を超えたものだと思います。悲しみは誰かに、又は何かにぶつけなければならないでしょう。炉に揺らぐ火は「さあ、話してみて」と、人の心を誘うようです。寒い日、固くこわばった身体と心を静かに暖めてもくれます。炉火の向い側には、恨みでも辛みでも受け止めてくれる作者が居るはずです。

むべ:「炉に語る」を三冬「炉」の子季語「炉話」に近い関連季語としたいです。炉は暖炉か囲炉裏かわからないのですが、いずれにせよそこは腰を落ち着ける場所であり、リラックスした時間であると思います。逆縁とは、親より子が先に亡くなったケースを指しているのでしょうか。なぜ親が遺され子が先立つのか…という、問うたところで正解を知りえない問いを、語り手は炉辺に語っているのです。ふだんは決して口にしない、蓋をしている気持ちが、今ゆっくり、時には迸るように流れ出ていこうとしています。作者は聞き手だったのではないでしょうか。黙って頷きながら聞いています。「逆縁」「恨み辛み」という言葉が強いインパクトを放ちますが、下五の「炉に語る」で、グリーフワークに辛抱強く同伴している作者の気持ちを感じて温かくもなります。

えいいち:炉が三冬の季語。9/4日のおでん酒の句の関連の句と思いました。上五から恨みを言いつつも愛おしみ、辛みごとには心の底からの深い悲しみを感じます。下五の措辞から淡々と語る親の深い悲しみを炉が受け止めて、そのほのかな温もりで親を慰めているように思いました。