かえる:おでんが三冬の季語です。一番仲の良かった同期の出世頭。将来を嘱望された彼の突然の訃報。憶測で噂する人たちに嫌気が差し、会社帰りに1人で思い出の居酒屋へ。つまみは彼の好きだったおでん。お猪口はふたつ。誰もいない隣席のお猪口にお酌すると、店の主人は何も言わずに箸をもう一膳並べてくれる。寒い夜にほかのお客の来る気配はない。自分と、姿の見えない彼。主人は無言でおでんの灰汁をとる。静かに静かに夜が過ぎていきます。そんな光景が浮かびました。

康子:勝手な想像ですが、お通夜の帰り、その彼も行きつけだった赤提灯のおでん屋さんに寄り、その店主や仲間達と彼を偲んで想い出話をしている様子が浮かびます。その彼の席にも、おでんの出汁で割ったお酒置いてあげて、一緒に会話しているかのように。おでんを取り囲みしんみりとした雰囲気ではなく明るく送り出してあげようという気持ちかもしれません。「企業戦士」の措辞があるので社会に貢献したことを褒めたたえているのでしょう。仕事をリタイヤしても飲み交わしたかったなぁ、と会話してるのかもしれません。「企業戦士」や「悼む」の言葉が「おでん」と言う柔らかい季語により、人情深く温かい雰囲気の句になっていると感じました。

あひる:おでんが三冬の季語。酒は喜びの場にも悲しみの場にも登場しますが、おでん酒となると、何となくあたたかく飾らない雰囲気を感じます。この頃は過労死のニュースも聞かれ、殺伐とした気持ちになりますが、この句の彼(企業戦士)は何らかの理由で亡くなったとは言え、かってこの仲間達と共に仕事に情熱を燃やし、生き生きと働いていた人ではないかと思えます。仲間たちはそんな彼の人柄を偲び、飾らない付き合いを懐かしんでいるのではないでしょうか。赤提灯や、おでんの湯気、悲しみを含んではいるけれど仲間たちのあたたかい人柄まで感じました。

澄子:こちらの御句を一詠し 24時間戦えますか?というコマーシャルコピーや ジャパン.アズ.ナンバーワンという言葉を思い出しました。しかしながら 彼悼むという下五で 全てがすばっと打ち切られ収束……華やかな雰囲気が一気に反転し悲しい現実となるのですが、そこがこの句の醍醐味かと思えました。

えいいち:おでん酒が三冬の季語。同僚が亡くなってしまったのですね。企業戦士の彼は仕事がハードで戦死の状態だったのでしょうか。寒い夜のおでん屋で飲む戦士達の姿が浮かびとてもつらい気持ちになります。しかしおでん酒で追悼するのが企業戦士の誇りなのかもしれませんね。

せいじ:おでんが三冬の季語。同僚の死を悼みおでんを食べながら酒を酌み交わしている。彼らもまた企業戦士なのである。前を向き、戦友の遺志を継ぐことを誓っているのだと思う。

むべ:「おでん酒」が三冬の「おでん」の子季語。主季語「おでん」ですと、家庭の食卓の可能性もあるのですが、「おでん酒」という上五でこの句の舞台は赤ちょうちん、縄のれん系とわかります。東京ならひと昔前の新橋あたりのおでん屋さんです。そして中七「企業戦士の」へ向かい、サラリーマン(死語?)の会社帰りのリラックスした一句かなと鑑賞を続けると、下五「彼悼む」でえ!と驚かされました。24時間働きづめだった同僚の、おそらくは急死だったのではないでしょうか。突然の別れを受け止めきれない仕事仲間と、おでんをつつきながら、彼を偲んでいる光景です。最後に彼と交わした会話、一緒に行った出張でのエピソードなど…おでん種も味がしみていますが、お酒も胃袋にしみるのです。この季語でないと成り立たないですね。