せいじ:秋の山道を歩いていると、人気のないさびしい谷の深い底から、何かよくわからないが、かすかな物音が聞こえてくる。作者の敏感なこころが、そこに秋の気配を感じとっている。秋の秋らしいもの寂しさとともに、秋が来たうれしさも感じられる。

えいいち:「秋」が秋の季語。人気のない谷底に秋の季節を感じたという句だと思いますが、全く人気がなく誰もいないどころか草も木も無くあるのはそそり立つ岸壁と源流のような湧き水だけ。だがその水の流れる微かな音から秋を感じ感動している情景を思い浮かべました。

むべ:前述の「羅漢みな…」の句と同様に、「秋を聞く」が三秋の季語「秋の声」に近いでしょうか。上五の「空谷」という言葉にインパクトがあります。北穂高岳の西面を数百メートル切れ落ちる滝谷をイメージしました。奈落は人工ではなく自然の造形の岩場でしょうか。そこに立つ作者は、秋の気配を目と耳、そして心で感じとっています。

あひる:秋が季語ですが、秋の声や秋の音を聞くイメージです。人気のない深い谷底には水の流れが細く見え、崖には紅葉しかかっている木々の葉が風に揺らいでいるようです。夏が終わり、秋の気配を探すような気持ちで、奈落の谷底を覗いています。何かもの寂しさを感じながらも、こんな空谷にまで秋の装いがなされていることに心動かされます。